【獣医師執筆】
犬との旅行はかわいそう?本当に楽しい旅にするための工夫とは
「犬との旅行はかわいそう?」そんな風に感じて旅行の計画に踏み出せない飼い主さんも多いのではないでしょうか。実は、愛犬との旅行は「準備」と「配慮」次第で大切な思い出に変えられるんです。本記事では、初めて愛犬との旅行を考えている飼い主さんに向けて、愛犬のストレスへの注意点から楽しい旅にするための具体的なコツ、快適に泊まれる宿の選び方までくわしく解説します。ポイントを押さえて、愛犬との楽しい旅行を計画しましょう。

愛犬との旅行はかわいそう?

初めての犬連れ旅行では、「知らない場所でストレスにならないかな」「乗り物やホテルで落ち着かないのでは」など、不安や心配が尽きません。しかし、その多くは“準備不足”や“情報不足”による誤解から生まれています。犬にとって、飼い主と一緒に過ごす時間そのものは安心で、楽しみの一つです。環境の変化は確かに負担になりますが、事前にしっかり準備を行い、性格や体調に配慮したプランを立てることで、犬も人間も無理なく旅を楽しむことが可能です。科学的にも「飼い主との分離は犬の大きなストレス要因」だという研究もあり、お留守番よりも一緒に旅行する方が安心につながるケースも少なくありません。必要な知識と準備を整えたうえで、愛犬と一緒にお出かけをポジティブなものに変えていきましょう。
目次
犬が旅行で感じるストレスとは
旅行中、犬が感じやすいストレスは主に4つあります。それぞれの要因を正しく理解し事前に対策することで、愛犬と一緒に安心して旅行を楽しむことができます。
- 〇 環境の変化
- 犬は環境の変化に非常に敏感な動物です。住み慣れた家から離れ、見慣れない景色、聞き慣れない音、違う匂いに囲まれると、それだけで強い不安を感じることがあります。とくに臆病な性格の犬や、普段から神経質な傾向のある犬は、旅先の刺激に圧倒されてしまう可能性があります。
- 〇 長時間の移動
- 慣れない車、電車、飛行機といった乗り物は、振動・音・閉塞感など、あらゆる面でストレスが溜まりやすいものです。車酔いをしやすい犬も多く、乗車中に落ち着きを失ったり、よだれを垂らしたり、震えるなどの様子を見せる場合もあります。また、長時間の移動でトイレを我慢してしまう場合は、排泄リズムの乱れが体調不良につながることもあるため要注意です。
- 〇 見知らぬ人や動物との接触
- 旅行中には、宿泊施設・観光地・ドッグランなどで、普段とは異なる人や動物に接する機会が増えます。他の犬や人間との接触が苦手な犬にとっては、これが大きなストレスになります。そのため見知らぬ存在が一度に多く接近すると、警戒心から吠えたり、逃げようとしたりすることがあります。さらに小型犬の場合は「知らない大きな犬」が近づいてくるだけで怯えることもあるため、事前の配慮が必要です。
- 〇 生活リズムの乱れ
- 食事の時間のズレや、決まった時間に排泄ができないといった状態が続くと、体調不良につながりかねません。人はつい楽しくなり、無理なペース配分で動いたり、連日の夜更かしをしがちですが、愛犬には大きな負担がかかってしまいます。
愛犬のストレスサインを見逃さないコツ

犬は言葉でストレスを訴えることができませんが、その代わり「カーミングシグナル」と呼ばれる行動を通じて不安を伝えています。代表的なカーミングサインとして以下のような行動が見られます。
- 〇 あくび
- 〇 舌を出し口を舐める
- 〇 目をそらす
- 〇 体を震わせる
- 〇 うろうろと落ち着かない
これらは一見するとただのしぐさに見えますが「この状況は不安です」と伝えているサインです。これらの行動が頻発したら、静かな場所へ移動したり、クレートやブランケットなどの落ち着けるアイテムを使って不安から遠ざけましょう。また、トイレを我慢する、食欲がない、吠えやすくなるなどの変化もストレス兆候の可能性があります。異変に早く気付けるよう、飼い主が普段から愛犬の様子を把握しておくことが大切です。
トレーニングで旅行もへっちゃら
愛犬が旅行中にストレスを感じにくくするには、事前のトレーニングが効果的です。
旅行計画に関係なく、普段から少しずつ取り組んでおきましょう。愛犬の性格に合わせて無理のないペースで取り組むことが大切です。
- 〇 「社会化トレーニング」
- 社会化とは、子犬のうちからさまざまな人や場所、音、動物などに慣れさせる訓練を言います。社会化を行うことで、成犬になってからも急な環境の変化に慣れやすくなります。
- 〇 「クレートトレーニング」
- クレートは、外出時に安心して休める「安全な場所」として非常に有効です。普段からクレートで寝る習慣を作っておくと、外出時も安心してクレートで過ごすことが出来ます。クレートに慣れておくことは、災害時での避難でも役立つため、日頃から習慣づけるのがおすすめです。
- 〇 「音慣れ」
- 車や電車の音など、様々な音に慣らしておくことでストレスを軽減できます。動画サイトなどで犬用の音慣れ動画を活用して、普段から聞き慣れない音に慣れていく工夫をしてみましょう。
旅行に持って行く必須アイテム
旅行中に愛犬が安心して過ごすために、持ち物の準備も重要です。旅先でフードが変わると消化不良を起こす可能性があるため、普段の食事は必ず持参しましょう。「クレート」や「ブランケット」など安心できる匂いがついたアイテムも忘れずに持っていくと落ち着きやすくなります。そのほか「常備薬」「マナーベルト」「トイレシート」「ウェットティッシュ」「リード」など、用途に応じて使い分けられるグッズを準備しておくと安心です。
- ◉ 予防接種や健康チェックを欠かさずに
- 予防接種や健康チェックも旅行前に済ませておくことが必須です。多くのペット可ホテルでは、狂犬病予防注射や混合ワクチンの接種証明書の提示が求められます。これは、他の宿泊客の犬や施設内の衛生環境を守るためのマナーでもあります。また、ノミ・ダニ・フィラリアといった寄生虫予防薬も事前に処方してもらい、旅先での感染リスクを避けましょう。持病のある犬や高齢犬の場合は、かかりつけの動物病院で相談して計画を立てることが大切です。万が一トラブルが起きた際に備え、現地の動物病院の情報も調べておくと良いでしょう。
- ◉ 初めての旅行で気をつけたいこと
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初めての犬連れ旅行でも、事前にポイントを押さえておけば愛犬も飼い主も安心して旅を楽しめます。ここでは、旅行中に特に気をつけたいポイントをご紹介します。
- 〇 休憩と運動でストレスを溜めない
- 旅行中移動や観光に夢中になっていると、つい休憩のタイミングを見逃しがちですが、犬にとってはこまめな休憩と適度な運動がとても重要です。特に長時間の車移動や電車移動では、クレートの中に閉じ込められたままになる時間が長く、体も心も緊張状態が続きます。1〜2時間に1回は外に出て、軽い散歩やストレッチの時間を設けるように心がけましょう。また、普段通りの「散歩のルーティン」を意識してあげることで、犬はいつもの時間の感覚を保ちやすくなり、不安を減らすことができます。
- 〇 安心できる空間を確保する
- 知らない場所では、犬も落ち着かずに緊張してしまいます。そんなときに効果的なのが「安心できる自分のスペース」を作ってあげることです。慣れたクレートやキャリーバッグにブランケットやおもちゃを入れて、いつもの匂いがする空間を作ってあげることで、移動中でもホッとできます。また宿泊先のホテルでは、ベッドの脇や静かな部屋の隅にスペースを作ってあげ、安心して寝られるようにしましょう。
- 〇 いつも通りの接し方で安心させよう
- 旅行先でついハイテンションになってしまうことはよくあります。しかし、犬にとって「いつも通りの家族との接し方」が何よりの安心材料です。急に声が大きくなったり、かまいすぎたり、逆に放っておいたりすると混乱してしまいます。旅行中も、落ち着いた声かけやアイコンタクト、優しいスキンシップなど、普段と変わらない接し方を心がけましょう。「特別なことをする」より、「いつも通り」を意識することが、犬にとっては一番安心できます。
- 〇 ストレスを感じたら予定変更も
- 旅行の計画を立てると、「せっかくだから全部回りたい」「予定通りに進めたい」と思ってしまいがちです。でも、愛犬の様子を最優先にすることが大切です。震えたり、食欲がない、いつもより元気がないなどのストレスサインが見られたら、思い切って予定を変更することも選択肢の一つです。無理に観光を続けるより、早めに宿に戻ってリラックスする時間を取った方が、犬にとっても飼い主にとっても良い思い出になります。旅行は「一緒に楽しむこと」が一番の目的。計画よりも、その時々の様子に合わせた柔軟な対応が大切です。
犬に優しい旅先を選ぶコツ

どこへ行くかによって、愛犬の旅の満足度は大きく変わります。騒音や混雑を避けられる立地や、散歩を楽しめる自然のある場所など、愛犬の性格に合った環境を選んであげましょう。
- 〇 ドッグラン併設ホテル
- 〇 施設内に散歩道があるホテル
- 〇 施設の周りに散歩道があるホテル
愛犬と「また行きたい」と思える旅にしよう

初めての犬連れ旅行には、不安や心配がつきものです。しかし、ストレスの要因を知り、普段から少しずつトレーニングを行ったり、旅行中も犬に合わせた過ごし方を選ぶことで楽しい旅行にすることは十分可能です。愛犬との旅行が、「また行きたい!」と思えるかけがえのない時間になるといいですね。
執筆者プロフィール
原田瑠菜
獣医師、ライター
大学卒業後、畜産系組合に入職し、乳牛の診療に携わる。その後、動物病院で犬や猫を中心とした診療業務に従事。現在は動物病院で働く傍ら、ライターとしてペット系記事を中心に執筆や監修を行っている。